第一章　原始・古代の神門

第一節　埋蔵文化財は語る

太古の住民（我々の先祖）が、形跡を以てその存在を明かにしてくれるものに、まず埋蔵文化財が挙げられ、神門地区で現在調査解明されているのは、ほぼ［表2］のとおりである。　太古は、縄文時代（BC五〇〇〇年頃）から古墳時代（AD五〇〇年頃まで）までの悠遠漠然の世界なので、人々の暮らしを想像することは憶測の域に留まらざるを得ない。

田畑遺跡

遺跡は周辺の水田より一～二㍍高い畑地に立地し、その範囲は東西一〇〇㍍、南北五〇㍍で、旧神戸川の自然堤防上にある。出土品は、壺形土器、高杯、石器等があり、とくに石器は打製の石庖丁のごとく刃部は鋭くとがっており、おそらく稲刈道具であっただろう。いずれも、弥生時代中期中葉に神戸川西岸に集落が出現したであろうと思われる形跡である。田畑遺跡の範囲確認のため、発掘調査（’８８年１１月・市教委）が行われ、その詳細な報告書が’89年3月に発行されている。

多聞院遺跡

標高六㍍、水田面より約二㍍の微高地その中心は真言宗・養龍山多聞院の境内地に当たる。昭和二十四年（一九四九）以来数次にわたる試掘が行われたが、貝塚以外の遺構は明らかでない。
しかし、貝塚を伴う遺跡として広く知られ、市内の矢野遺跡とならび出雲平野を代表する弥生遺跡である。遺物は、混土貝層、黒褐色土層から検出され、古式土師器、石器、骨角器、貝輪片等があり、中期中葉以降の遺跡形成と思われる。
なお、当院の西部は、古代の「神門水海」（神西潮の前身）がこの辺まで広がっていたので、丘陵地の古代住民が水辺の低地へ進出し、漁労にも携わっていたと思われる。

妙蓮寺山古墳

日蓮宗・久遠山妙蓮寺所在の低丘陵・妙蓮寺山の西端中腹に築かれる。墳丘は全長四九㍍の前方後円墳で、円筒埴輪が出土しているが、葺石はない。
埋葬施設は、自然石と割石を用いた全長八㍍の両袖形の横穴式石室で、玄門は框石の上に二枚の長方形の板石を置き観音開き状になっているのが珍しい。
副葬品は、ガラス丸玉、円頭大刀、鉄斧、金銅方形金具、須恵器提瓶等豊富で、被葬者の勢力をうかがわせ、およそ六世紀中頃のものと推定される。島振県指定史跡。

宝塚古墳

別名、一保塚とも言う。出雲西高等学校の方一〇〇㍍の標高八㍍州の平地に築かれ、広い水田の中の島のようにマテバ椎に囲まれている。
神戸川の旧自然堤防上に造られたもので、墳丘は石室の天井が露出するほどに失われている。
内部構造は、片袖形の横穴式石室に大形の石を刳り抜いた横口式の家形石棺が置かれている。玄室は、奥行三・六㍍、幅二・一㍍、高さ二・五㍍の大きさで、四壁は凝灰岩の切石を使っている。石室の開口は古く、副葬品としては僅かに数個の鉄鏃が知られているのみである。

国指定史跡。

また、雲陽誌（一七一七刊）には、「宝塚　高さ八尺横七尺四方、岩窟の内石塔あり、古老伝日古志の里長國佐與布といふ者の廟なり、」と、載っている。

天神原古墳

宝塚古墳の西方二〇〇㍍に位置し、標高八㍍程の神戸川の旧自然堤防上に築かれている。
昭和四十七年（一九七二）　の神戸川圃場整備中に水田下から発見されたが、水田開発のため、その後消滅した。
径三三㍍の円墳と推定されるが、盛土の多くは（発見時には）既に失われ、僅かに墳丘の基底部のみ残していた。周囲には大量の円筒埴輪の破片や葺石と考えられる人頭大の石が散乱していた。出土品としては、前述の埴輪以外に、六世紀中頃と推定される須恵器の子持壺の破片が採集されている。
この古墳の発見から、出雲平野には後世の開墾時によって消滅した古墳が、かなりあったと思われる。

横穴群

神戸川左岸の古志町、下古志町一帯の低丘陵には、多くの横穴群が存在している。
これらのものは土に掘られているため保存状態は悪く、半壊しているものが多い。
穴の形態としては、四注式整正家形の妻入構造や丸天井系があり、出土品には須恵器や直刀が多い。また、福知寺山横穴には組合せ家型石棺が置かれている。

（注）横穴＝古墳時代後期（西暦六～七世紀代）の墳墓で、横穴式石室を築く代わりに、丘陵や台地の崖に墓室を掘り込み、入口を塞いだもの。

神門地区（遺跡）の特色

神門地区は、古志地区と同じく、南北に細長い地域で、その北を神戸川によって画され、南には丘陵地が広がっている。
平野の縁辺部であるため、埋蔵文化財は質・量ともに豊かで、市内でも塩冶地区と比肩する遺跡の密集地となっている。
沖積平野の旧自然堤防上に、宅地や畑地として土地利用がなされ、ここに集落遺跡が数多く存在する。遺跡の初見は、弥生中期で、このころに営まれた竪穴式住居跡が沖積平野面では初めて明確に検出（田畑遺跡）された。また、古墳時代になると、南方の山麓にいくつかの古墳と多くの横穴墓群が築造されている。

奈良時代には遺物の散布状態からみると、大きな集落遺跡はないようであるが、今後の調査によっては新たに確認されることも有り得る。

　　　　　　　［神門地区遺跡詳細分布調査報告書より］